不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

遺跡の声/堀晃

遺跡の声 (創元SF文庫)

遺跡の声 (創元SF文庫)

 廃墟マニアというものが世の中には存在するらしい。地下構造物好きはリアルの知り合いにいるものの、廃墟好きの謦咳には直に接する機会を持てないでいるが、確かに、壮大な廃墟の写真をたまに見ると、私のような朴念仁でも「おお」と思ったりする。その虚しく寂しい風景が、我々に人の営みの刹那的な一面を否応なく想起させるからであろうか。
 さて『遺跡の声』は、そういった施設や町といった単位ではなく、一つの知的種族の文明全体という大きなスケールの廃墟を描く。要はタイトルどおり、遺跡である。そして同時に、そういった場所を見て回る、ある一人の《宇宙遺跡調査員》の物語でもある。
 廃墟と呼ぶにはあまりにも壮大で、未知のテクノロジーで一部はまだ稼働していたりする遺跡に、調査員は何を思うのか。調査員の助手で、自身がある種族最後の一人であるらしい結晶生命体トリニティは何を思うのか。後者はよくわからないが、前者は一人称主人公なのである程度は把握できる。しかし、筆致が非常に淡々としており抑制も利いているのが特徴で、恐らく全てが曝け出されているわけではないだろう、といった感触を得られるのがポイントである。寂莫とし荒涼とした光景には、異星文明の産物であることに起因する正体不明感も加えられ、一種の詩的情緒すら醸し出されている。その馥郁たる余情に酔いたい、名短編集であるといえるだろう。落ち着いて読みましょう。