不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

Uボート113 最後の潜航/ジョン・マノック

Uボート113最後の潜航 (ヴィレッジブックス)

Uボート113最後の潜航 (ヴィレッジブックス)

 1943年、輸送船攻撃のため、Uボート部隊は米国南東部沖にも展開していた。クルト・シュトゥルマーが艦長を務めるUボート113は、僚艦とメキシコ湾内で落ち合ったところを米軍の飛行艇に急襲される。艦は損傷著しく、修理が必須となってしまった。そこでクルトは、艦を米国本土に秘密裏に停泊させて、過去にもドイツに協力したアメリカ国内の少数部族の助けを得て、必要な部品を得る秘策を練る。
 ほとんど全てのシーンが洋上で展開されるのかと思いきや、停泊している期間が結構長く、また協力を仰ぐ少数部族との緊張を孕んだ関係、若い仕官と部族の娘との恋など、艦内にとどまらない人間ドラマに結構なページが割かれている。無論これは「敵国内で潜水艦を修理する」という無茶をやるからであって、プロット上必要であり、無駄または余計という印象は一切抱かずに済んだ。部族の婆様があまりにも神出鬼没で、特殊能力を持っているのではないかと暗に仄めかされるところのみ、多少の議論を呼ぶだろう。
 Uボートがちゃんと修理できるのか、彼らはドイツに帰れるのか。そして折に触れ挟まれる、米英連合軍内部でのシーンでは、連合軍側がU113の侵入に気付くのかどうかという緊張感も煽られている。そしてまた、要の戦争シーンは、良い奴も悪い奴も戦争では死ぬし、同じく、良い奴も悪い奴も戦争で生き残る、ということを読者にしっかりと示す。そしてこの事情は、敵にも味方にも共通するのだ。単純な全滅エンドでもハッピー・エンドでもないこと自体、戦争の不条理とナチスの不条理を示しているように思われた。魅力的かつ印象的な登場人物が多いのも素晴らしい。
 結構広くおすすめできる佳作海洋冒険小説だと思う。