不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ランボー・クラブ/岸田るり子

ランボー・クラブ (ミステリ・フロンティア)

ランボー・クラブ (ミステリ・フロンティア)

 色覚障害を持つ不登校中学生・菊巳きくみはある日、ランボーの誌が掲載されたwebサイトを見て、自分がフランス語を読めることに気付く。そしてそのサイトの誌が書き換えられた時、菊巳の周辺で連続殺人事件が……! 一方その頃、大阪で流行らない私立探偵事務所を開設している三井麻里美の元に、東京の裕福な医者から、出奔した妻と息子を探してくれとの依頼が舞い込む。
 不登校児とはいえ純朴な少年のルーツ探しにおいてアイデンティティの揺らぎを、私立探偵のパートでは助手とのユーモラスなやり取りとともに調査過程を、それぞれ堅実に描く。この作者は従来《イヤな登場人物によるイヤな物語》という作風を特徴としてきたが、『ランボー・クラブ』ではこの要素がないとまでは言わないが抑え気味で、従来にも増して結構広い層に受け容れられる物語になっているのではないか。ミステリ的な構成もなかなか綺麗である。作者は2本のプロット状況をうまく錯綜させ、読者になかなか真相を気取らせない。真相は若干特殊なもので少々アンフェアかもしれないが、ここまで読ませてくれたら御の字である。
 個人的には、ミステリ・フロンティアの既存の某作品のアップグレード・ヴァージョンじゃないかな、という印象を受けた。ネタバレになりかねないので詳述はしませんが……。あ、岸田るり子の作品じゃないっす。