不壊の槍は折られましたが、何か?

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エピデミック/川端裕人

エピデミック

エピデミック

 東京近郊、農業と漁業の町・崎浜で、重症化するインフルエンザ患者が続出する。果たしてこれはSARSクラスの新型インフルエンザなのか? 国立機関から派遣されてきた疫学隊隊員の島袋ケイト、総合病院の高柳医師、保険所所員の小堺らは、次第にパニックの度合いを増す崎浜で、懸命の予防対策と感染ルート究明に挑む。
 作者が川端裕人ということで、従来からの読者であれば容易に想像できるだろうが、本書は単純なパニック小説ではない。新型の疫病が疑われるケースにおける、疫学の得べかりし実施と対世効を描く。これが本書を貫くテーマである。無論、感染者や医療従事者を中心に、個人のドラマも存分に盛り込まれ感興を高め、娯楽小説としての本道も決して踏み外さない。しかし中心に据えられるのは、あくまで「疫学」そのものである。例によって恐らく膨大な取材を通し、川端裕人の筆は「疫学」の現在とその問題を鮮やかに描き出す。科学面の説明も例によってわかりやすく咀嚼されていてありがたい。もう少し話のテンションが高くても良かったと思うが、これはないものねだり。広くお勧めできる小説であると思う。
 追記するが、今回も子供の使い方がうまかった。リアルな物語に、ひとたらしのファンタジーというか。