不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ジーヴスと恋の季節/P・G・ウッドハウス

 アガサ叔母からデヴリル・ホールに行けと言われたバーティだったが、親友ガッシーが一緒に滞在するにせよ、若きホール当主のエズモンドに5人もおばさんがいるとはと、怖気をふるう。しかし、友人の俳優とエズモンドの従妹の恋、その俳優の妹の女優と当主エズモンドの恋がそれぞれエズモンドのおばさんの反対に遭い、旧友ガッシーが酔った挙句警察に逮捕されたことを知り、一肌脱ごうと決意する。ガッシーの替え玉としてデヴリル・ホールへ向かったバーティは、ガッシーが逮捕された事実にマデラインが気付いて婚約が破棄されるのを防止しつつ、デヴリル・ホールの恋人たちの危難を助けるのだ……。
 当地ではメイドと巡査の恋も絡むので、都合4組ものカップルが登場し、物語をしっちゃかめっちゃかに掻き回す。文章は最初からユーモアたっぷりで素晴らしく面白いが、最初のうちストーリーそのものはそれほど盛り上がらない。しかし次第に、バーティに起因するにせよしないにせよ、様々なトラブルが発生し始めて恋人たちはどんどん窮地に追い詰められていくのだ。いつも通りと言えばいつも通りだが、このいつも通り自体非常に面白い。何でこの人たちは困難に際して「奇策」しか思い付けないのであろうか! また、今回は恋人たちだけで8名にも及び、人間関係がかなり錯綜する。プロットの緻密さはさすがに『ウースター家の掟』に及ばないが、こんがらがったトラブルの糸をジーヴスに見事に解きほぐさせる辺り、構成力の勝利といえよう。やはりこの作家は頭が良いのである。
 というわけで、今回も非常に素晴らしかったことであるよ。