不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

シンプル・プラン/スコット・スミス

シンプル・プラン (扶桑社ミステリー)

シンプル・プラン (扶桑社ミステリー)

 私はハンク・ミッチェル。身重の妻サラと一緒に、もうすぐ生まれてくる子供を心待ちに穏やかな日々を送っていた。そんな冬のある日、今はすっかり疎遠の兄ジェイコブ、そして兄の親友ルーと共に、借金を苦にして自殺した両親の墓に参る途中、墜落していた飛行機を発見した。コックピットの中には、男の死体、そして大金が入ったバッグ。これをネコババしようとする三人であったが、私は大金を半年間塩漬けにすべきだと主張し、兄とルーもこれに従うかに見えた……。
 大金が次第に人生を狂わせていく様を描く。プロットは一本道であるが、途中で大小様々なことを次々起こして飽きさせない。私と兄、そして両親の過去が感傷を交えつつ語られ、また私と妻の夫婦愛も重要な地位を占めるなど、キャラクター面でもしっかり肉付けされている。このため彼らが基本的には善良だったことがよくわかり、大金の存在ゆえに一種の狂気に駆られていく過程が、より一層読者の目に焼き付くことになる。本人にその自覚がない(事態が段々おかしくなってきたとは思うものの、自分の性格が変容していることには気付いていない)分、変にリアルで恐ろしいのも素晴らしい。なお、余談だが、ジェイコブは大男だが弱気な性格で、三十代後半なのに女性とキスしたことすらなく(よってほぼ確実に童貞)、「このままでは終われん。この金さえあれば何とかなる」みたいなことを言う。読者としては「うわああああああ」と思わざるを得ない。
 ストーリーテリングが非常に巧みで、訳文も含めて非常に読みやすい。海外ミステリをあまり読んだことがない人にも強くオススメできる作品である。