不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ダイイング・アイ/東野圭吾

ダイイング・アイ

ダイイング・アイ

 自分の記憶が一部失われていることに気付いた雨村慎介は、その間に自分が交通事故を起こし、一人の女性を轢き殺してしまったらしいことを知る。その記憶を取り戻したいと思った彼は、関係者とされる人々に問い合わせ始めるが……。
 《小説宝石》での連載終了後、単行本化になぜか9年近くもかかった作品。一見ありがちと思える交通事故に、記憶喪失・マネキン・謎の美女といったファクターを絡めて、サスペンスとして綺麗に纏め上げている。何らかの事情が隠されていることは確実なのに、事実関係が闇に閉ざされている期間が長く、またマネキンの不気味さ、謎の美女の淫靡な狂気も効果的に使われており、謎めいた雰囲気が実にいい感じで漂ってくるのである。展開も劇的であり、読者を惹き込むはずだ。よって読んでいる最中に明らかな不満を覚える人は少数派だろう。今回は主人公が結構自律的な人格を有しているのもプラスに働いており、事件を追う理由が薄弱ではないこと、状況に流され過ぎているわけでないこともポイントが高い。
 ただ、ラストで承服できなくなる人は多かろう。一応最後までミステリではあるが、個人的には少々ケレンがかち過ぎていた。つるつる読め、物語としてはしっかり収束する作品なので、広くおすすめしても良いとは思う。