不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

留美のために/倉阪鬼一郎

留美のために (ミステリー・リーグ)

留美のために (ミステリー・リーグ)

 ある夜、洋食屋で、文芸サークルの会合が開かれていた。最近亡くなったサークル員・羽根木の遺稿(小説)が発見されたというのだ。羽根木は、彼の少し前にこれまた亡くなった留美を愛しており、遺稿のテーマは彼女の死の真相らしいのだが……。
 作品内のテキストを駆使し、意外な真相を明らかにしてくれる一冊である。構成がなかなかに緻密であるばかりか、心理面・雰囲気面にも整合性を感じさせるのが素晴らしい。静謐さを保ちつつ、ある意味浅薄な人間模様が浮かび上がり、緊張感が不気味に盛り上がってくる。まさに倉阪鬼一郎の持ち味であり、面白く読んだ。完成度も高く、またネタのトンでもぶりも今回はそこまでハードではないため、既存ファン以外にも受け入れられるのではないか。というわけで、広くおすすめしたい佳品である。