不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

雲上都市の大冒険/山口芳宏

雲上都市の大冒険

雲上都市の大冒険

 昭和27年、東北の鉱山街の地下牢に20年閉じ込められていた男が消え、鉱山主が殺害されてしまった。怯える鉱山の跡取りは、東京から顧問弁護士の《私》殿島直紀を呼び寄せる。そして名探偵・荒城咲之助、義手を駆使して探偵活動をする若者・真野原玄志郎も鉱山に参集し……。
 ガジェットを多く使った小説で、トリック等には無理があるうえ、省ける箇所も多々あるのでプロには受けが悪かろうと思った。しかし、筆には勢いがあり、名文ではないと思うものの読んでいて心地よい。トリックは無理こそあるが、発想そのものは嫌いではない。キャラクターも活き活きとしており、坑道の中の冒険もなかなか読ませる。シリーズが続き、作品世界やシリーズ・キャラクターがより明快に固まってくれば、それなりに固定読者も付くだろうと思われた。肩に力を入れずに読める、装飾に満ちた本格ミステリとしておすすめしておきたい。
 なお、今後については、二の矢三の矢と次々作品を発表できるかが試金石となるだろう。こういう作風は安定した頻度で読めてこそ映える。