不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

深夜の逃亡者/リチャード・マシスン

深夜の逃亡者 (扶桑社ミステリー マ 26-2)

深夜の逃亡者 (扶桑社ミステリー マ 26-2)

 精神病院から脱走した元ピアニストのヴィンスは、マネージャーのスタン宅を急襲し、さらには自分が懸想していた女性ルースの夫ボブ・マッコールを呼び出して殺害しようと試みる。
 ヴィンスはルースが自分を愛しているに違いないと確信しており、その思考回路はストーカーそのものである。
 全体的には何ということもない話だが、適度なサスペンスが心地よい。マネージャー夫婦の微妙な関係(妻が浮気しまくりなのだが、夫のスタンは根性無しで歯噛みしながら黙って見ているしかない)が、物語に隈取りを付けている。作中の時間経過はせいぜい半日といったところで、物理的にも230ページ未満と短い。そして内容も、これに見合った軽いものだが、つるつる読めるんでいいんじゃないでしょうか。「その本ならでは」といった感触を得たい読者にはおすすめしませんが、マシスンの引出しの多さを確認しておきたい人は読んでもいいと思います。完成度が高いことは間違いないので。