不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

女王国の城/有栖川有栖

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

 大学に顔を見せない江神を案じて、推理小説研究会の後輩4名は、江神の部屋に残る痕跡から行き先を推理して、新興宗教団体*1の聖地、神倉へ向かう。総本部に滞在中だった江神の無事は確認されたが、そこで何と殺人事件が発生する。宗教団体の幹部たちは一行を事実上の軟禁下に置くことを決定し、囚われの身となったアリスたちは決死の脱出と真相究明を試みる……。
 学生アリスシリーズの第4作。事件のスケールと、細かいディテールが同居し、展開もなかなかにドラマティックである。本格本格したガチガチの構成美は後退したが、代わりに、快活な雰囲気が打ち出されており楽しく読める。正直不要な箇所もかなり散見されるが、あるならあるで良い箇所が多いのは真っ当に評価したい。粗筋を聞いた瞬間は「江神の過去に絡んだ深刻・悲劇的な話か?」と思ったものだが、その予想は良い方向に外れた。肝心の本格ミステリとしては、ロジックはそれほど強固なものではないが、事件の構図が非常に面白いし、それを長々と強調しない辺りも好印象である。
 本書については、事前には作家生命を賭さざるを得ない作品として、有栖川自身、各所で悲壮な決意を表明し、ついでに(火村シリーズを評価せず江神シリーズばかり待望する)読者や評論家への当てこすりと取れないこともない言動を散々取って来た経緯があり、正直非常に不安だったのだけれど、大丈夫、ちゃんとした作品でしたよ。

*1:激しくエロヒムっぽい。