不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ベルリン国立歌劇場

  1. ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ
  • クリスティアン・フランツ(トリスタン)
  • ルネ・パーペ(マルケ王)
  • ワルトラウト・マイヤー(イゾルデ)
  • ローマン・トレーケル(クルヴェナル)
  • ミシェル・デ・ヤング(ブランゲーネ)
  • ライナー・ゴールドベルク(メロート)
  • ロリアン・ホフマン(牧童)
  • アルットゥ・カターヤ(舵手)
  • パヴォル・ブレスリク(船乗り)

 全幕通してセットは一緒。舞台中央に頭を抱えてうずくまる巨大な天使のオブジェ(ブロンズ色)。身長にしたら多分15メートルくらいにはなるかも知れない。で、これが回転する。登場人物は翼に乗って演技するわけです(羽根も再現されているので、凄い歩きにくそうだった)。そして舞台背面には西洋風の墓石が何本か立っており(いくつかは傾いでいる)、第一幕の最後(船が港に着く場面)と第二幕の途中(トリスタンとイゾルデの密会の場所に、イゾルデの夫たるマルケ王が部下と共に乗り込んでくる)では、この墓石の回りに喪服姿の紳士淑女(ヴィクトリア風の衣装)が立っている、という感じ。
 変な演出とは言いながら、抑制されたとまでは言わないが激しくもない登場人物の振りと相俟って、この爛れ倦み、死に憑かれた恋愛劇を何らかの象徴劇として見るには意味深でよく合っていました。照明も非常にうまく使っていて、徐々に暗くなってイゾルデ以外が見えなくなっていき、遂にはイゾルデも闇の中に消えるラストの《イゾルデ愛の死》は感心しましたね。もちろんマイヤーの歌も素晴らしかったですが。
 音楽的には、ミスター大雑把のバレンボイムがその真価を発揮(皮肉ではない)、ベルリン・シュターツカペレの渋い音色を駆使して一気呵成に聴かせませした。マイヤーとパーぺは素晴らしいの一言(前者はちょっと声が低いですが本来メゾソプラノな人なんで想定内)、フランツも第一幕中盤は歌唱面でも大根でどうなることかと思いましたがテンションが一気に上がる第一幕終盤で持ち直し、第二幕以降は安心して聴けました。威勢の良いテノールなのかと思っていたら、第三幕では疲れた歌を聴かせてくれて嬉しい誤算。トレーケルはちょっと声が出ていなかったように思いましたが文句を言うほどではなく、デ・ヤングもなかなか良かったです。
 第二幕最後で、喋れない老人(多分脳溢血か何かで言語中枢やってる人)が叫び始めたのは残念。第三幕ではいませんでした。体調が悪かったのか摘み出されたのかは知りませんし、お年寄りは労わらねばならないのは重々承知しておりますが、憎悪と怒りを禁じ得なかったことをここに告白しておきます。