不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

Rのつく月には気をつけよう/石持浅海

Rのつく月には気をつけよう

Rのつく月には気をつけよう

 恋愛+食品の謎を、宴会(家飲み)の場で解き明かす連作ミステリ。一種の安楽椅子探偵である。また毎回レギュラー3名(大学時代の友人)+ゲスト1名というメンバー構成を取る。レギュラーがゲストの相談事に乗るという構成は、アイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』を想起させる。ただしその相談事は《日常の謎》絡みの話である。あくまでゲストを介した又聞きにとどまるし、恋愛という心理を解きほぐすという話の性格上、厳密な裏付けには欠けるが、巧みにロジカルっぽく見せる技はまことに素晴らしい。また、シリーズ通して仕掛けられたちょっとしたネタも、非常にわかりやすいが微笑ましい。圧倒的な感銘をもたらすわけではないものの、佳品として十分に評価したい一冊である。
 と言いつつ、作品評価とは無関係に気になった箇所を一点だけ。

 揚子江*1はいくつかの理由で間違っている。まずひとつ。うちの会社は食品会社だから、イメージを何よりも大切にする。だから就職試験のときにはっきり言われるんだ。「申し訳ないけど、身辺調査をさせてもらう。君自身に問題がなくても、周囲のトラブルに巻き込まれるのであれば、採用できない」とね。藤岡さんも、エンデン*2も就職活動のときに同じことを言われている。そしてエンデンはそれにパスして会社に入ってきているんだ。だからエンデンがこの会社にいる時点で、藤岡さんはエンデンの周囲にトラブルの元がないことを知っていることになる。だから、揚子江が言ったような理由で身辺調査をする理由は、何もない。

 人権上、企業が採用時に学生の身辺調査をおこなうのは問題とされており、企業倫理が問われてしまいます。もし万が一実際に調査していても、人事の人は公言しないと思います。石持さんのお勤め先が食品メーカであることは重々承知しているんですが……うーん。これは、食品業界は、就職活動中の学生の身辺調査をして恥じないほど差別意識バリバリだってこと? それとも、石持浅海が推理の材料として考え付いたフィクションですか? どっちなのかハッキリしないと、落ち着きませんです。

*1:キャラのあだ名

*2:キャラのあだ名