不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ブラックペアン1988/海堂尊

ブラックペアン1988

ブラックペアン1988

 1988年、外科医研修生の世良は東城大学附属病院に配属される。そこには、「神の手」と呼ばれる佐伯教授、外部から転入してきた高階講師、偏屈な講師で手術の名手の渡海らがいた。世良は、全く異なる考え方を持つ彼らからそれぞれに、医者にとって大切なことを学んでいく。
 登場人物の丁々発止としたやり取りを通して、登場人物たちが強烈な個性をぶつけ合い、医療の抱える問題を掘り下げる。と言っても社会に対してでかい声でシュプレヒコールを上げる、といった展開は辿らない。ベースにあるのはキャラクター自身の医療思想である。彼らは医療について自ら考え、試行し、悩み、信じる。作者に医療の現実を訴える意図があるのは明白だが、だからといってそれがエンターテインメント性を毀損するようなこともなく、楽しく読める作品に仕上がっている。今回はミステリとは呼べない内容だが、妙にファンタジーの要素が混入することもない。まずは順当に楽しめる一冊に仕上がっている。海堂未体験の方にも遠慮なくおすすめできる一冊だ。