不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

石のささやき/トマス・H・クック

石のささやき (文春文庫)

石のささやき (文春文庫)

 妹が壊れ始めたのは、障害を持つ幼い息子を亡くしてからだった。私は知り合いの刑事に顛末を語る……。
 本書の特徴は構成にある。「妹が壊れ」てから時系列に沿って顛末が描かれるパートと、全てが終わった後に刑事に質問されながら私が顛末を語るパートが交互する。前者は後者の内容というわけだ。読者には、最初からこの物語が悲劇的な結末を迎えることがわかるわけで、主人公の暗澹とした回顧に沈滞感を、徐々に盛り上がる破滅の予兆にいくばくかの高揚感を抱きつつ作品を読み進めることになる。じっくり読めば、作品の静かな筆致を満喫できるはずだ。クックに期待される高い水準は維持された、渋い佳品だと思います。
 クックは道尾秀介も大好きな作家らしい。これを聞いた時、道尾を読む前にクックを経験していた自分としては、道尾の作風がストンと腑に落ちた。では逆の場合、つまり道尾ファンがクックの作品を初めて読んで、「なるほどこれは道尾さんが好きそう」と思うのかどうか。ちょっと興味があるところなので、どなたかトライしてみませんか? 別にこの作品じゃなくても良いと思いますが。