不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

レイニー・パークの音/早瀬乱

レイニー・パークの音

レイニー・パークの音

 明治36年、造成間もない日比谷公園で公開模擬裁判が始まった。当時学生だった5人の男が、10年前、売れない作家夫婦(失踪中)を殺害したのではないかと訴えられたのだ。被告の一人・元屋夏雄は知らせを受けて家を出てしまう。夏雄の妻・セツは夫の青春時代を探るため、彼が残した原稿を読み始め……。
 明治時代の中盤〜後期の東京の風景が非常に鮮やかに描かれている。中でも特に印象的なのは、テーマの一つとも言うべき《洋式公園》である。日比谷公園は恐らく日本で初めて、一般人でも行ける洋式公園として誕生した。失踪した作家もまた、《公園論》という論文を発表し、近代都市における公園の必要性を説いていた。これを前提に、早瀬乱は、大都市東京の近代都市への変貌をしっかり描き込むのである。近付く日露戦争の影も非常に効果的に使われている。そして最後に、物語は非常にファンタスティックな(とはいえ超現実的ではないので安心な)幕切れを迎える。全体の構成も端正であると思う。ミステリ的な仕掛けも、正直小粒ではあるが見事なものである。
 本書は早瀬乱の実力をはっきり示す佳品といえよう。私は彼の他の作品を読んでいないが、チェックしなければと思わされた。