サクリファイス/近藤史恵
- 作者: 近藤史恵
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/08
- メディア: 単行本
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青春小説と言うには主人公が少々とうが立っている(23歳だ)ものの、まだまだ前途ある若者の煩悶と成長が一人称でしっかり語られる。もっとも本作は単純な成長譚ではなく、誓の立場が石尾のサポート役であるところが極めて興味深い。
世の中で英雄英傑に育つ人間は僅かである。大半の人間は社会の歯車*1として一生を終えることになるし、恋人や子がいなければ、そのような人物は誰にとっても代替可能なものでしかなくなる*2。しかし、その地位自体は欠かすことができないし、唯一無二の存在たる英雄英傑も、自らの存在そのものが彼ら(掛け替えはあるけれど、非常に大切な人々)に支えられていることを認識している、または認識すべきなのである。
本作は、このようなオルタナティブな立場にいる人間を主人公に据え、オルタナティブにはオルタナティブなりの価値ある人生があることを力強く示す。だからこそこの作品は、世の中の大半を占める我々のような人間、つまり代わりなどいくらでもいる人々に強く訴えかける力を持つのである。恋愛関係すら掛け替えありまくりなのが泣ける。なお、このようなテーマがミステリ的な仕掛けと密接に結び付いているのは、本書を本格ミステリとして評価するうえでは非常に重要なポイントとなる。250ページ未満に手際よくまとめられているのも素晴らしい。各種年末ベストでどう評価されるかが楽しみな作品といえよう。