不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

リロ・グラ・シスタ/詠坂雄二

リロ・グラ・シスタ―the little glass sister (カッパ・ノベルス)

リロ・グラ・シスタ―the little glass sister (カッパ・ノベルス)

 手品部長にして吏塚高等学校の名探偵《私》は、日が暮れた十二月の午後六時の更衣室で、男子だと思っていた在校生の胸に二つの膨らみがあることに気付く。彼女はそこで何をやっていたのか? 翌日、屋上で男子在校生の墜死体が発見される。そして《私》は、自分の無実を証明してくれとの依頼をクラスメイトから受け、事件の調査を開始する……。
 《私》によるハードボイルド・タッチの一人称が印象的だ。学生が一人称で私立探偵を気取る新本格作品には『密閉教室』という作品があるが、『リロ・グラ・シスタ』の主人公はより徹底しており、気取りではなく本当に素でこういう性格だということが伝わってくる。しかしこの一人称を通して構築されるのは、青春模様を活写する正統派学園小説および、幻想的な謎から始まって推理合戦すらおこなわれるガジェット満載の本格ミステリなのだ。ハードボイルド、学園、本格いずれも各構成要素は既視感のあるものだが、ブレンド具合がなかなか面白い効果を生み出している。ミステリに新地平を拓く作品ではないだろうが、3ジャンルの特徴を個性的に抽出した作品として、興味深く読める作品だ。
 ただし、4色刷りは鬱陶しいだけ。猛省を促したい。