不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ワールドコン

 11:00からのロバート・シルヴァーバーグのサイン会にちょっと前から並ぶべく、会場に向かう。みなとみらいのブックファーストで知り合いにバッタリ遭遇。「ワールドコン真っ最中なのに、この期に及んでまだ本屋寄るか」とお互い笑った。会場入りしてから他の知り合いにも遭遇し、一緒に待ってからシルヴァーバーグのサインを受ける。先日読んだ『いまひとたびの生』に為書き付きでサインをいただきました。彼、お年寄りですが確かにダンディー、テラカッコヨス……などと完璧にミーハーと成り下がってしまいましたが、しょうがないじゃねえか。31日のラリイ・ニーヴンもそうだったけど、海外の巨匠が目の前で「生きてる、動いてる」んだぜ! これでミーハーにならない奴はSFファンじゃないね。
 その後、GOHであるところのデイヴィッド・ブリンのパネルをラスト20分だけ覗く。ゆっくり喋る上にオーバーリアクションで滅茶苦茶楽しかったです。サイン会と被っていなければ全部行ったんですけどねえ。科学を信じ、人類の夢や未来を熱く語るブリンの姿に、日本人作家は多分ここまで語らないし、そもそも前向きな信念を持ってないよなと、非常に興味深かった。あと、読者を掴む意外性と構成力を会得するため、SFを書くより先にまず murder mystery を書いておくべきだとする意見が聞けて大満足。『サンダイバー』は宇宙版『猿来たりなば』だと常々主張している*1人間としては、ブリンがミステリをある程度意識していることを確認でき、非常に興味深かったです。
 12:00からはアイリーン・ガンとエレン・ダトロウにサインを貰いに行きました。スタッフが「アイリーン・ガンは来れませーん」などと集まった人たちに大声で告知し始めた矢先に、群衆の中からいきなり「あいりーん・がんデース」と本人が登場したのには笑った。というわけでサイン会はつつがなく執り行われました。お二人とも為書きに色々書いてくれてありがたかった。
 その後、星雲賞柴野拓美賞授賞式へ。スライドが全部日本語なのはあまりにもあり得ない。内容については、ノンフィクションとか絵とか漫画とかアニメとか科学技術とかSFファンダムとかコミケとかよくわからんのでコメントしません。投票もしてないしね。
 14:00からは、本屋パネルで現実的な話を聞いてみる。既知の内容ではあるんですが、現実の声には定期的に触れておく必要が(少なくとも私には)あります。ていうか、書店も出版社も本当に大変なんです。別にこれはパネルでの発言とは関係ないんですが、図書館で本借りるのをベースにしている人や、文庫化してからしか本買わない人は、海外のシリーズ翻訳が途切れたとか欲しい作家の出版が途絶えたとか文庫化が遅い(されない)などと文句言えた義理ではないと思いました。もちろん、図書館利用や文庫化待ちは悪でも何でもないですが、言う資格がなくなることは出て来るんじゃないかな。あと、「こんなつまらんベストセラー出版するより、もっと内容のあるものを云々」というのも、ちょっとねえ。
 15:00からは、今回の大会最大の目玉、テッド・チャンのインタビュー。どう見ても人が入り切るわけがない部屋が予定されていたんですが、直前にもっとでかい場所に変更されて良かったです。内容は普通にまとまったインタビュー。あの時間(わずか1時間!)では質量共にあれが最上限でしょう。トマス・M・ディッシュに見出されたというのが興味深かったです。さてこのインタビュー、客席にいた人々の豪華さも特筆すべきで、飛浩隆伊藤計劃円城塔山田正紀(気付いた順。他にもまだいたらしい)各氏などの錚々たる日本人作家に、評論家陣も大集結。私の知り合いのワールドコン参加者@SF読みもほとんど来ていて、とにかく凄かった。終了後、ロビーで即席サイン会がおこなわれたんですが(私もいただきました!)、その間、飛浩隆伊藤計劃円城塔が喋っているなど豪華な光景が続出。理性の箍が外れて完全にミーハーに成り下がったさすらい人は、この御三方にもサインを貰ってしまいましたとさ。挙句の果てに、テッド・チャン東浩紀氏と喋りながら、大森望氏や編集者の方に連れられて、どこかに消えて行きました。
 その後私は会場内を若干ウロウロしましたが、テッド・チャン企画で燃え尽きたので、ロビーでのんべんだらりしてから、またまたSF系の知り合いの飲み会(20名強)に混ぜてもらう。桜木町まで行かないと、適当なお店がないんですよね。そして月曜は行かないので、俺的ワールドコンはこれにて終了。

 4日間ワールドコンに参加してみた感想ですが、何だかんだ言いつつ楽しめました。英語できたらもっともっと楽しかったんだろうなあ。
 感動したのは、かくも豪華なプロの人々が(内実はよく知りませんが、体裁としては)金を払ってこういう企画に顔を出しているということ。今のミステリの世界ではまず無理。絶対無理。死んでも無理。もうカルチャーショックが凄過ぎです。正直ワールドコンどころか通常時のSFセミナーの前ですら、SRもMYSCONもしょぼ過ぎる*2この現状を鑑みるに、作家・評論家・編集者・ファンいずれも、ファンダム企画への認識について、ミステリとSFの間でとんでもない差異があるのではないかと思いました。
 ……って俺、ちょっとぶっちゃけ過ぎたかも……。

*1:むろん誰も同意してくれない。

*2:つまらんと言っているわけではない。