不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

いまひとたびの生/ロバート・シルヴァーバーグ

 生前、人の記憶と人格=魂を完全にテープに記録し、死後、パーソナと呼ばれるそれを他人の脳に移植する技術が開発され、大金持ちの間では実用化された。頭の中で死者が喋るものの、全能力全知識を自分のものにできるため、富豪たちはパーソナを活用し更なるスキルアップを図る。だが誰の魂でも移植できるわけではなく、魂を集中管理する協会の厳正な審査を経て、死者との適合性が認められた人物にしか移植許可は下りない。そんなある日、辣腕の大富豪ポール・カフマンが死亡する。新興の資産家であるローディティスは、子飼いの部下ノーイエスを差し向けて彼の魂を手に入れようと画策するが、ポールの遺産相続人にして甥のマークはライバルが強大化することを恐れてこれを妨害する。一方、マークの娘で奔放に生きるライサは、人生で初めてのパーソナ移植を試みようとしていた……。
 仏教の輪廻転生が実現したかのような世界設定のもと、ポールの魂の争奪戦を主軸に、ノーイエスと彼のパーソナの対立(そりが合ってない)、パーソナ移植を経たライサの成長などを描く。かなりサクサク進む話で、SF設定を手際よく解説してゆくとともに、涅槃の概念を盛り込むことで《死者の魂がもう一度甦る》ことの神秘性をあますところなく醸成する。パーソナが生者を乗っ取る《ディバック》という現象の存在もなかなか重要だ。またライサのパーソナの死の謎を探る段もあるなど、ミステリ要素もある。一編のSFサスペンス映画を見るように読める、とても楽しい娯楽小品といえよう。