不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

水銀奇譚/牧野修

水銀奇譚 (ミステリーYA!)

水銀奇譚 (ミステリーYA!)

 高校生の香織はシンクロナイズド・スイミングに打ち込んでいたが、親しい友人のいない私生活そのままの、パートナーとの協調性に顧慮しない泳ぎで周囲を困らせていた。そんなある日、小学校時代の秘密クラブ仲間が死んだとの報が飛び込んで来る。そのクラブは、錬金術やオカルトに詳しい美少年・薫が主導していたが、彼は小学五年生の時に謎の失踪を遂げていた……。
 少年少女の造形が極めて興味深い。彼らは瑞々しい純粋さを持ちながら、虚無や邪念に囚われているようにも見えて、しかし明らかに単なる中二病であったりするなど、なかなか「こういう奴です!」と明示できない。だがそれぞれにちゃんと明晰な個性が確立されており、言動や思考過程に齟齬や違和感が出ないのである。これは素晴らしい。水にかかわる不気味な怪奇幻想も印象的で、まさに《奇譚》である。さらに実はSFであったりして、展開もなかなか波乱含みだ。短く読みやすい作品の中に、牧野修がその多彩な作風を手際よく詰め合わせた(「傑作」の下というイメージで捉えられない、言葉本来の意味での)佳品といえるだろう。広くおすすめしたい一冊である。