水銀奇譚/牧野修
- 作者: 牧野修
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 2007/08
- メディア: 単行本
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少年少女の造形が極めて興味深い。彼らは瑞々しい純粋さを持ちながら、虚無や邪念に囚われているようにも見えて、しかし明らかに単なる中二病であったりするなど、なかなか「こういう奴です!」と明示できない。だがそれぞれにちゃんと明晰な個性が確立されており、言動や思考過程に齟齬や違和感が出ないのである。これは素晴らしい。水にかかわる不気味な怪奇幻想も印象的で、まさに《奇譚》である。さらに実はSFであったりして、展開もなかなか波乱含みだ。短く読みやすい作品の中に、牧野修がその多彩な作風を手際よく詰め合わせた(「傑作」の下というイメージで捉えられない、言葉本来の意味での)佳品といえるだろう。広くおすすめしたい一冊である。