不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ヒンデンブルク号の殺人/マックス・アラン・コリンズ

ヒンデルブルク号の殺人 (扶桑社ミステリー)

ヒンデルブルク号の殺人 (扶桑社ミステリー)

 大西洋横断中のドイツの飛行船ヒンデンブルク号から、ナチスのスパイが失踪した。もしや飛行船から落ちたのか? いや、落とされたのか? 偶然乗り合わせた推理作家レスリー・チャータリスは、船長の依頼を受けて調査を開始する。
 大惨事シリーズ第二弾。チャータリスがヒンデンブルク号最後の飛行に乗り合わせていたのは史実ではなく作者の創作で、この点は前作『タイタニック号の殺人』とは異なる。他にも架空または実際にここにはいなかった人物が含まれるが、もちろん実在の人物も多く描かれており、ヒンデンブルク号の描写を含め、史実に関する半端ではない取材量を思わせる。基調は前作を引き継いでおり、斬新な仕掛けがあるわけでもショッキングな展開を辿るわけでもないが、その分安心して読めるのはありがたい。今回はナチスの影もあるためか、途中の展開もよりサスペンスフル。楽しく読める娯楽小説として広くおすすめしたい佳作といえよう。