不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

赤石沢教室の実験/田代裕彦

[rakuten:book:12084955:detail]asin:4829176466
 片桐芸術高等学校の敷地内に設けられたアトリエで暮らしていた希代の芸術家・赤石沢宗隆(故人)。彼の弟子たちは「赤石沢教室」と呼ばれており、その最後の4名は現在、片桐芸術高等学校の3年生となっていた。学園理事長の孫である片桐あゆみは、2年前に亡くなった大好きだった兄の後を追いこの学校に入学するが、「赤石沢教室」の4名との会話の内に、彼らが兄の死に関わっていたことを知る。
 おサイコな展開を辿る、女子学生主体の学園ミステリである。主人公の基本造形は《元気な女の子》なのだが、《僕》が《君》に語りかける、一人称だが二人称っぽい叙述形式を採用しており、その不安定さが感興を盛り上げている。また、《僕》が自らを語るパートもあるのだが、その内容がなかなかにトチ狂っており、かなり不穏な空気が流れるのも良い。精神的に安定している登場人物が誰一人いないのも特徴で、突如日常が壊れてもおかしくない緊張感が味わい深い。ミステリ的に賞賛すべきはミスディレクションの完成度で、構図自体はそれなりによくあるパターンのため真相に見当を付けるのは難しくないが、伏線や構成などをきっちり処理しており印象は悪くない。文章が読みやすく、メタレベルで作品世界が崩壊するといったこともないので、広くおすすめしてもOKな佳品といえよう。