不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

イルミナティⅠ〜Ⅲ/ロバート・シェイ&ロバート・A・ウィルスン

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 マンハッタンの左翼系雑誌社が爆破されたが、NY市警のヴェテラン刑事は世界支配を目論むとされる秘密結社イルミナティに関するメモを大量に発見する。一方、アフリカの小国フェルナンド・ポーをめぐって大国首脳間で終末戦争の予感が持ち上がる。さらに一方、謎の男ハグバートはイルミナティと戦うべく、イルカの助けを借りつつ黄金色の潜水艦でアトランティス文明の秘法を追う。

「おっそろしいほど長い本なのよ」ワイルドブラッドはすねたように弁解した。「読んでいる時間はまったくないけど、最後まで斜め読みしようとしているところ。この作者たちはまるっきりの能無しよ──文体も、構成もなってないわ。出だしは推理小説風なのに、SFになったかと思うと、怪奇ものになるし、気味悪いほど退屈な何十というテーマをめぐるめちゃくちゃに細かな情報がぎっしり詰まってるの。それに時間の流れもフォークナーやジョイス気取りのすごくわざとらしいやり方でてんでばらばら。さらにひどいのは、猛烈に卑猥なセックス・シーンが売ることだけを考えてぶちこまれていて、作者たちは──聞いたこともない人たちなんだけど──最高に悪趣味を発揮して、実在の政治上の人物を出鱈目でたらめに引きずりこんで、実在する陰謀を暴いているかのように見せかけてくる。こんなくずを読むために私が時間を無駄にするなんて思わなくていいけど、ともかく明日の正午までには完璧に辛辣しんらつな書評を仕上げておくわ」
 『ピラミッドからのぞく目(下)』 169〜170ページ

 基本的には上記に付け加えるべきことなど何もないのだけれど、悪足掻きして若干補足しておこう。
 唖然呆然、とにかく狂っている作品で、怪しげで神秘的でおまけにオカルティックな陰謀論がこれでもかとばかり繰り出される。視点も場面も文章も人物も何もかもが一定しない。ただし作者はわかってやっているというか、壮大なジョークであることは確実であり、もはや全編これネタ。作品にはジャンクの味わいが濃厚に漂う。その見事なまでのカオスっぷりの前には、『ゴーレム100』やジョン・スラデックですら裸足で逃げ出すしかあるまい。ただし作者が身を切っている感じはそれほど強くなく、糞真面目な読解には向かない。
 確実に万人向きではないものの、一部の好事家には大受けするはずだ。滅茶苦茶な諸事項の羅列に酔い痴れる感じで読めば良いだろう。