不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

収穫祭/西澤保彦

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 首尾木村北西区に住んでいるのはわずか数世帯、もちろん住民も少ない。父と別居した母に連れられ、彼女の実家で育った中学三年の伊吹省路もその一人である。彼は典型的な中二病患者で、厳しい母と祖母を疎んじ悶々とした日々を送っていた。そんなある日、台風がやって来る。当日まだ風雨が激しくない時に町に出ていた省路が戻ると、北西区は惨劇の舞台となっていた……。
 足掛け20年にわたる大事件を描き抜く1944枚の大著である。主要登場人物は例外なく妄執に蝕まれ、全体のトーンは非常に黒い。ユーモラスなシーンも時々挟まれるが雰囲気を明るくするには至らず、最終的な読後感への影響はほぼ皆無。作者はキャラの感情を基本的に生のまま提示するし、筆致も視座も卑近であるため、読んでいて非常に気が滅入る。ここら辺は西澤康彦の面目躍如たるものがあろう。ミステリ的なネタは、そこそこの完成度を誇る。特に伏線の張り方はさすがに手馴れたものだ。陰鬱な人間ドラマに覆われがちだが、ディベートもしっかり為されている。この内容で1900枚というのは個人的には長過ぎたが、ファンならば一読の価値があるはずだ。