不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

快盗タナーは眠らない/ローレンス・ブロック

快盗タナーは眠らない (創元推理文庫)

快盗タナーは眠らない (創元推理文庫)

 脳に銃弾を受けて眠らなくなったタナーは、余った時間を勉強に充て数カ国語を習得し、また怪しげな組織(テロ団体をはじめ、イギリスの王統を認めない団体、地球は球ではなく平面だと主張する団体などなど)に複数加入している。さてそんなタナーが、ひょんなことからトルコに三百万ドル相当の金貨が埋められていることを知る。彼は勇躍してトルコに向かうが、秘密警察に身元を怪しまれてしまい強制送還されることになる。だがタナーは送還の途中、アイルランドで護送警官を殴って逃亡し、大冒険を始めてしまう。
 筆致は端正で、タナーも飄々としたニヒルな姿勢を崩さない。しかし、にもかかわらず、ストーリー展開が完全にトチ狂っていて、登場人物の言動も(彼ら自身は真剣だが)もはや無軌道のレベルに達している。スパイ冒険小説のパロディであり、実に素晴らしいバカミス。とにかく俺は大好きなので、このシリーズの更なる訳出を期待したい。そのためには皆さん、買いましょう。