不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

監禁/福田栄一

監禁 (講談社ノベルス)

監禁 (講談社ノベルス)

 廃品回収した机の中から、「助けてくれ、カンキンされている 警察にれんらくを」というメッセージが書かれた紙を見付けた美哉。社長の甥を殴って家出してしまったが、見知らぬ老婆の家に身を寄せることになる泰夫。結婚するつもりだが、新婦の方の家庭が崩壊しており、何かと苦労する予感を抱く義人と棗。
 端正な出来栄えを示す、福田栄一のサスペンス小説。全く関係のなさそうな上記3パートの並列と収斂を、ケレンを一切排して描く。堅牢な構成と素朴な筆致で読ませるが、この種のプロセスを経る物語において、ここまであざとさが見られない小説も稀だ。登場人物造形も実に平易。周到であり素朴というこの持ち味を、物足りないと取るか、読みやすいと取るか。評価の分かれ目は恐らくここだ。
 なお、「端正」「堅牢」なのは、物語の組み立てに限定されている。犯人の計画は、かなり杜撰というか無理無理、求心力を維持するのが困難を極めるものであり、陰謀論のビリーバーでなければ現実味を感じないと思われる*1。ただし、この弱点も、派手な演出を排除することであまり目立たなくなっているのは注目すべきだろう。故意か結果かはよくわからないが。

*1:別にユダヤとかアメリカとか日本政府の陰謀が『監禁』に隠されているわけではないが。