復讐はお好き?/カール・ハイアセン
- 作者: カールハイアセン,Carl Hiaasen,田村義進
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/06/01
- メディア: 文庫
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ジョーイによる復讐を、愉快な大騒動として鮮やかに描き出す。キャラクター造形が相変らず振るっており、端役の隅々に至るまで一々が魅力的である。ジョーイに味方する側(なぜかチャズの浮気相手まで含まれたりする)は実に活き活きとしており、陰湿さを感じさせず実に楽しそうに復讐を仕組む。ただしこれには、標的となるチャズがたいへんなお間抜けかつ憎めないキャラであることも、大いに影響している。セックス狂、頭が悪い、根性もないという三拍子揃った彼のアホアホぶりは、非常に素晴らしい。また、ジョーイをチャズが殺したのではと疑う刑事カール・ロールヴァーグも、一見真面目なのだが、話の本筋とは全く脈略なくニシキヘビを2匹も飼っているという珍妙な設定が光る。
しかしこのように個性の強い登場人物の中でも、最も印象深いのは、解説でも言及されているが、チャズの用心棒として黒幕から派遣される、毛むくじゃらの大男トゥールである。最初は頭の良くない粗暴なキャラ(よくあるタイプ)と思わせておいて、ある人物との交流を境に、徐々に優しい心を身に付けるのだ。こう言うと無駄に情緒的な小説または挿話と誤解されそうだが、終始、あっけらかんとしたユーモアに包まれて進行するので、胃にもたれるようなことは全くない。ご安心を。
とはいえ、『復讐はお好き?』が軽いだけの小説でないこともまた事実。たとえば、本作の背景には自然保護問題があるし、夫婦や家族、愛を扱った物語でもある。各登場人物の抱く悲しさや怒りもまた、よく考えれば深刻であるし(ラストで爽やかに晴れ渡るが)、彼らの内面も、笑劇の中でではあるが、実は丹念に描き込まれており奥深い。しかしハイアセンは、読者に対するお説教モードには決して突入しない。作者は、本作を徹底的に娯楽小説として錬成しており、重い要素をそのまま重く描くことを避けている。
というわけで、ギャグがいっぱい詰まっていて、しかも全体的に卑近な要素もかなりあるにもかかわらず、安っぽい印象が皆無な素晴らしい作品である。細部の台詞回しも一々気が利いている。軽く読んでも深く読んでも面白い、ハイアセンの新たな傑作といえよう。広くおすすめしたい。