不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

襲撃者の夜/ジャック・ケッチャム

襲撃者の夜 (扶桑社ミステリー)

襲撃者の夜 (扶桑社ミステリー)

 『オフシーズン』の事件から11年。メイン州の海外沿いのリゾート地では、女性二人が惨殺され、赤ん坊が失踪する事件が起きた。手口を見て、《食人族》の仕業ではないかと疑い始める警察。しかし《食人族》は既に、次の獲物として、幸福なゲームデイザイナー一家とその友人母子を狙っていた。
 またもや殺戮の嵐が吹き荒れる……のだが、殺害方法の描写がより残酷になっているとはいえ、『オフシーズン』で見せた、透徹とした筆致による《虚無》への洞察は弱まり、前作ではそもそも全否定されていたものが、『襲撃者の夜』ではある程度肯定的に捉えられる。すなわち、精神の強さ、人生の意義、そして生命の偉大さ。しかし『オフシーズン』を受けるには、これではあまりに軟弱過ぎるのではないか。
 もちろん、今回も非常に酷い話ではあり、残虐性のみを求めるのであれば、十分以上に期待に応えてくれる力作ではある。また、上述の精神・人生・生命の肯定は、これはこれで味わい深く、素晴らしいものである。だが、恐ろしいほど洗練され蒸留されていた『オフシーズン』のような作品を期待する向きには、若干の失望をもたらすだろう。