不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

老人と宇宙/ジョン・スコルジー

老人と宇宙(そら) (ハヤカワ文庫SF)

老人と宇宙(そら) (ハヤカワ文庫SF)

 ジョン・ペリーは、75歳の誕生日に亡妻の墓参りをしてから、コロニー防衛軍に入った。コロニー防衛軍は、人類文明圏全体を防衛する任に当たる一方、地球に対して、自軍を含めた宇宙の一切合財の情報を秘匿し、ただただ、地球には二度と戻れないという条件で、75歳以上の男女(さほど健康でなくともいいらしい)の入隊を募っているだけなのだった。75歳の老人たちばかり集めても兵士としては役に立たないはずだが、しかしコロニー防衛軍は、とんでもない超技術を(エイリアンから会得・模倣するなどして)獲得しているらしい。ということは、このまま老いて朽ちるのみの身体を、若返らせてくれるのではないか? 地球人たちは、そう考えて、毎年、結構な数の人間が入隊を志願している。そして実際に、入隊したペリーたちは地球外で若返りの秘術を受け、そればかりか、より美しく、逞しくなったのだ! だがそれは、実に新兵の8割が生きて戻れない、エイリアンたちとの苛烈な戦争へ突入させんがためのものだったのである。
 物語は、主人公ペリーの、どことなくユーモラスな口調でさくさく進む。固有名詞が付く登場人物における死亡率は結構なものだが*1、過度に重くせず、感傷はサラリと流れる程度。基本的には、兵士たちの快活な会話とテンポ良く進むストーリーによって、終始楽しく読むことができる。エイリアンたちが徹底的に異質な存在であること、人類間における政治的要素が皆無であることなどにより、風刺性や社会派の色を排除し、物語の複雑化・多様化をも回避して、徹底的にエンターテインメント小説してくれる。ただし、兵士たちが老人ばかりであることが、絶妙なスパイスとして物語を締めていることが見逃せない*2。やはり、物事を知らない青年たちでは、こうは行かないはずだ。軍の誰も彼もが人生経験が豊かで、様々に達観している*3からこそ、このような人間ドラマが生まれ得るのだ。
 もっとも、作者自身はまだ30代なので、終盤に《若さ》がナマで出てしまったが、この勇み足部分も面白かったから、別にいいや。
 というわけで、「深みがない」と文句を言う人もいるだろうが、何も考えずに楽しむ読書がしたい人には、強くおすすめしたい。

*1:とはいえ、さすがに船戸与一ほどではない。船戸においては全滅エンドすらあるからなあ……。

*2:高齢化社会や老人問題云々の風刺性は、注意深く取り除かれています。

*3:醒めているわけではないことに注意。