不壊の槍は折られましたが、何か?

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チーム・バチスタの栄光/海堂尊

チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光

 桜宮市に位置する東城大学付属病院では、天才外科医・桐生恭一を中心とするチームが、バチスタ手術を施術し目覚しい成績を挙げていた。人は彼らを称して《チーム・バチスタ》を呼ぶようになったのだが、この最高のチームが、突如として3件連続で術中死を起こしてしまう。一体何が狂い始めたのか? 内部調査に担ぎ出されたのは、患者の愚痴を聞くのが仕事の万年講師・田口公平だった。
 この作品の大まかな構成は、関係者への調査を2巡するというものだ。1巡目は田口のみで聴取をおこなうが、2巡目は田口に加えて、《火喰い鳥》《ロジカル・モンスター》の通り名を持つ、厚生労働省の変人官僚・白鳥圭輔も参加する。この2巡目が作品の肝で、調査はハチャメチャとなり、面白さも比例して跳ね上がる。しかし田口のみの1巡目も、十分にリーダビリティが高く、読ませる。主要登場人物の活きの良さは、これがデビュー作であることを考えれば異常。田口による一人称も、心憎いまでに軽妙だ。また、ディテールが細かいものの、医療に明るくない読者にもわかりやすく書かれており、非常に嬉しい。なるほどこれは評判にもなる。
 というわけで大変楽しんだのだが、通常であればエピローグに相当するだろう第三部でも、ネタ(ミステリ的なネタではない)がてんこ盛りなのは、ややしつこいと考える。別にエピローグに至らないと明かせないネタばかりでもないだろうに……。また、これは本作においては魅力の一部でもあるので一方的に非難できないのだが、全体的に、勢いで書き散らしている印象を受けた。海堂は語りたいことを全て書こうとしており、まあ一発屋を志向するならばこれでも問題ないが、作家としてキャリアを形成していきたいのであれば、もっと冷静な筆捌きが求められる。この作家は他に『螺鈿迷宮』しか読んでいないのだが、あちらの出来を鑑みるに、海堂尊は悪い方向に舵を切ってしまったのではないか。少々心配である。他の2作も読んでみたい。