笑う男/ヘニング・マンケル
- 作者: ヘニング・マンケル,柳沢由実子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/09/30
- メディア: 文庫
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社会派のモチーフをベースとした重厚な物語という特徴は、質を伴って堅持される。また、視点人物がまたヴァランダーに限られるようになったので、彼自身の問題がまたもやクローズアップされる。ヴァランダーが高齢の父親や娘など、家族の問題に悩まされる辺り、事件の本筋とはそれほど関係ないとはいえ、なかなか味わい深い。
警察小説としては、本作から登場する、新任女性刑事アン・ブリッド=フーグルンド(既婚)の存在が印象的である。ヴァランダーの休職中に赴任して来て、他の部下が(優秀とされる)フーグルンドの存在に警戒感を抱くことも手伝い、ヴァランダーは彼女に、変化する警察、変化する時代を見るのである。
というわけで、基本的には傑作なのだが、事件自体に若干のケレン味がある。これまでこのシリーズは、外国人排斥、社会主義体制崩壊、黒人差別と来ていた。転じて、今回の事件背景は、うーんちょっとどうなんでしょうか。絶対ないとは思わないが、現実世界でもさもありなんと思わせるリアリティが薄いのではないか。悪人たち、仕事が雑い! 雑いよ! 私がものを知らんだけかも知れないが、これだけが残念。