ウルチモ・トルッコ/深水黎一郎
- 作者: 深水黎一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/04/06
- メディア: 新書
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劇的に売れているわけでもないが、まあボチボチという推理作家《私》に、一通の手紙が届く。その手紙には、《読者が犯人》という究極のネタを考え付いた、高値で引き取ってくれたら詳細を教える、という趣旨のことが書かれていた。訝しむ《私》は、その傍らで、大学時代の同窓にして読書サークルに所属した有馬に相談を持ちかけたり、超心理学を研究している古瀬博士のもとに取材に出掛けたりしていたのだったが……。
前回のメフィスト受賞作『天帝のはしたなき果実』から一転して、しっかりした文章で綴られていてまずは安心。作者は1963年生まれの大学教員とのことで、その経歴に見合った堅牢さを備えている(ただし晦渋さは全くなく、あくまで平易)。ミステリとしてもフェア・プレイに気を使うなど、手筋になかなか光るものを感じた。小説作りも至極真っ当で、結果的にミステリ的には無関係であるようなエピソードも、情感やテーマの面では効果を上げたりと、なかなか手際が良い。
しかし中心に据えられるネタは、確実に好悪を分けるし議論も呼ぶはずだ。私は思わず笑ってしまったが、コチコチの本格ファンダムには受け容れられまい。また、ハチャメチャな小説が大好きな人には、先述の手堅さが地味な印象を与えてしまうため、馬鹿受けするわけでもないだろう。更に、これは完全に無茶な望みなのだが、発表形態がアレじゃなくてメフィスト賞&ノベルス刊行だったので、画竜点睛を欠く結果となった。アレだったら、もう完璧だったのにと至極残念。仕方ないですけど。
というわけで、ネタそのものはさて措き、作家の今後の展開においては堅実な作風を予感させるデビュー作と言えるだろう。第2作か第3作が試金石となるだろう。