不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

エリア7/マシュー・ライリー

エリア7 上 合衆国空軍秘密基地を脱出せよ (ランダムハウス講談社文庫)

エリア7 上 合衆国空軍秘密基地を脱出せよ (ランダムハウス講談社文庫)

エリア7 下 合衆国空軍秘密基地を脱出せよ (ランダムハウス講談社文庫)

エリア7 下 合衆国空軍秘密基地を脱出せよ (ランダムハウス講談社文庫)

 ユタ州の砂漠の地下にある、空軍の秘密基地《エリア7》。そこを視察に訪れた米国大統領一行だったが、基地の空軍に反乱を起こされ、基地内に閉じ込められてしまう。そして何と、大統領の心臓には知らぬ間に発信機が埋め込まれ、鼓動が停止すると、全米14都市が核で消し飛んでしまうというのだ。敵の首領は、これから大統領を基地内で狩り立てると宣言し、部下たちに大統領を襲わせる。凄い勢いで屠られてゆくSP。そんな中、諸般の事情から大統領の警護の任に当たっていた、海兵隊大尉スコーフィールド率いる一隊が、獅子奮迅の活躍を始めるのだった……!
 本当にずーーーーーっとドンパチやってる小説。矢継ぎ早のアクション・シーンの連続は手に汗を握るが、それでページが埋め尽くされているため、物語全体から見ると緩急というものがない。結果、徐々にアクションそのものへの感覚は麻痺し、《のっぺりした小説だな》という思いを禁じ得なくなる。また作者は小説が非常に下手で、アクション・シーン以外には見るべきものが全くない。人物描写も今一つ。誰も彼もが希薄な印象を残す。勇猛な戦士のスコーフィールド先生が、彼女さん(こいつも兵士)とキスすらまだしてなかったような奥手という点で、読者の笑いを誘う程度である。戦闘中にそんな相談仲間にされても……。
 というわけで、一編の小説としては疑問符を付けざるを得ない作品といえよう。しかし、肉体改造した敵部隊や、90分に1回は大統領がタッチしなければならないボタンなど、てんこ盛りの小道具は確かに楽しい。宇宙とか熊とかシリアルキラーとか、他では確実にあり得ない展開が読者を待ち受ける。壮大な大風呂敷を見ることが好きな人にはお薦めしたい。……風呂敷畳む能力は福井晴敏西村健の30%程度しかない模様だが。