青に候/志水辰夫
- 作者: 志水辰夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/02/22
- メディア: 単行本
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本当に瑞々しい文章で綴る、青春歴史小説である。といっても、青年が若さに頼って熱く燃えるような物語ではない。佐平の情熱を克明に描きつつも、三人称を貫き通す地の文があくまで抑制を利かせ、格調の高さを終始保っているのが素晴らしい。人生の苦さ・甘さ・切なさはもちろん、狂信的な女権伸張論者には難詰されそうな男の浪漫や、明快に描かれる正邪すらもが、ただただ自然にそこに息付く。若い作家には絶対できない芸当で、まさに大家の至芸といえよう。それも、志水辰夫のようなレベルで《自分の文章》をしっかり持った老大家にして初めて到達できる、圧倒的に晴朗な境地がここにある。
《現在》である江戸パートと、《過去》である栗山パートが絶妙に入り混じるカットバック法も目覚しい。そして藩における対立や、明らかになる真相もまた、詳述できないがテーマとしてはなかなかに興味深い。
本当に素晴らしい作品であり、特に志水辰夫ファンは必読中の必読。一応ミステリだし確実に歴史小説ではあるが、取り敢えずジャンルを気にせず読むことをお薦めします。