不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

悪魔は地下室で歌う/ジョン・ソール

悪魔は地下室で歌う (ランダムハウス講談社文庫)

悪魔は地下室で歌う (ランダムハウス講談社文庫)

 ニューヨーク州ロングアイランドに住むマーシャル一家(両親+高校生の一人娘)は、一家の主である弁護士スティーブの出勤経路の都合で、引越しをすることになった。あと1年で高校卒業を迎え、部活動等でもやる気満々だった娘のリンジーは不満一杯であったが、家族崩壊を避けるべく、引越しに渋々同意する。そしてマーシャル邸はオープンハウスとなるのだが、リンジーに目を付けていた悪鬼が付け込んで来るのだった……!
 オチは見え見えのホラー・サスペンスだが、非常に丁寧に書かれているのでポイント高い。オープンハウスとなると、家の購入希望者が現に人が住んでいる物件にやって来て部屋を見て回ることになる。赤の他人が自宅に入って来るこの制度に、ソールは恐怖の材を採る。目の付け所が良い。
 また、母娘が感じる《恐怖》は非常に丹念に描出されており、彼女たちが怖がっているのが手に取るようにわかる。この手のホラー小説の巧拙は、読者が恐怖するか否かではなく、登場人物をうまく恐怖させられるかにかかっている。『悪魔は地下室で笑う』は、良い意味でそのお手本だ。また全体として設計がうまく、すいすい読めてリーダビリティが高い。
 というわけで、大傑作というわけではないが、名手謹製の佳品として愛惜措く能わざる一冊となっている。広くお薦めしたい。