不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

失われた夜の夜/ジャン=クロード・イゾ

失われた夜の夜 (創元推理文庫)

失われた夜の夜 (創元推理文庫)

 マルセイユ中央警察の刑事ファビオの幼馴染、マニュとウーゴ。彼ら3人はかつて同じ女を愛し、そして友情を培い共に強盗をはたらいた仲であったが、マニュとウーゴの悪事にファビオが愛想を尽かす形で交流が途切れていた。20年後、マニュとウーゴは次々に殺される。さらに、ファビオが心寄せていたアラブ系の若い娘レイラが失踪し、やがて他殺体となって発見された。これらに関連はあるのか……?
 不良刑事を主人公に据え、ノワールともハードボイルドとも、さりとて警察小説とも言い切れぬ不思議な雰囲気が醸し出されている。現実と回想が空行なしで交錯する独特な構成はなかなかに面白い。また、旧友たちとの絆を回想するにしても、たとえば『ミスティック・リバー』のように友情が強く懐旧されるわけではない。焦点が合わされるのは、現在の主人公に付き纏う倦んだ情動だ。レイラの生前から何気にいっぱい女がいたファビオは、オヤジっぽくもあるが同時に、とてもナイーブな感受性を秘めているようにも見受けられる。筆が人間性の深い所にまで敢えて踏み込まないのも特徴だ。事柄はただ流れ行く。たとえそれがいかに劇的であろうとも、流れ行くことに変わりはないのである……というわけで、非常に印象深い作品であった。三部作の模様なので、続編にも期待したい。