リヴァイアサン号殺人事件/ボリス・アクーニン
- 作者: ボリスアクーニン,沼野恭子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/02/27
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 15回
- この商品を含むブログ (31件) を見る
少なくともモスクワでは新刊が出るたびに必ず山積みになり、ロシアのエンタメ系作家では最も有名とされるボリス・アクーニン。ファンドーリン・シリーズは、その彼を代表するシリーズとのことだ。
妖しい謎の財宝、犯人当て(結構水準高い!)、豪華客船における活劇などなどがこれでもかと繰り出され、実に楽しく読み通すことができる。これだけでも十分面白いが、単に楽しいだけの娯楽小説に終わらないのが素晴らしい。
もちろん、単に楽しむだけの読み方も何ら問題ないのだが、たとえば視点設定が実に巧みである。『リヴァイアサン号殺人事件』の視点人物は単一ではなく、一等客室の乗客が入れ代わり立ち代り務めるのだが、各視点人物の価値観や人格がそれぞれ明確に打ち出されるため、ガジェットに依存せずとも、読解における多様性を担保することに成功している。だいいち、5名もの視点人物を明快に描き分け、読者も全く混乱しないことがどれ程凄いことか。また、彼らの中には洋行帰りの日本人もいて、東洋と西洋の価値観の違いも(娯楽小説的な多少の誇張はあると思うが)しっかりと打ち出されるのである。
というわけで、非の打ち所もない娯楽性と共に、文学的深読みへの橋頭堡すら用意された、素晴らしい作品であった。この作家の更なる訳出を望む。