不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ガラスのなかの少女/ジェフリー・フォード

ガラスのなかの少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ガラスのなかの少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 時は1932年。不法移民の少年ディエゴ(当時17歳)は、いんちき霊媒師トマス・シェルに我が子のように可愛がられ薫陶を受けつつ、一味に加わって、金持ちの邸宅で降霊会を開く日々を送っていた。そんなある日、ある邸宅で、窓ガラスに数日前から行方不明となっている少女の姿が映る。シェルの仲間たちは、この怪現象に不審を抱き、事件を調べ始めるのだった……。
 この小説は、80を超え、もうかなり弱っている老人が、自らの未成年期の出来事を思い返す、という形式をとる。となれば自動的に、ランズデールの『ボトムズ』や『ダークライン』が思い出されるわけだが、あちらの主人公がローティーンであったのに対し、『ガラスのなかの少女』の主人公はハイティーンだ。従ってその内実はかなり異なっており、主人公自身の物語としては、「子供としての成長」ではなく「青少年から一人前の漢へ」という変化が描かれる。当然、性的な事柄も『ボトムズ』などに比べるまでもなく直裁に語られるし、周囲の大人たちも、主人公を教え諭し導く存在であり続けるのではなく、次第に対等・等身大の人間としての性格を明らかにしてゆく。また、時代は共通しているものの、ランズデールの舞台が南部であった一方、こちらはアメリカ北部であり、土地の空気が異なることも見逃せない。
 というわけで、お子様フィルタを通さないタイプの成長小説と言えるが、それが幻想性とミステリアスな緊張感を孕みつつ進行するのは非常に興味深く、かつ素晴らしい。読者を選ぶ作品でもないので、幻想小説作家なんでしょとこれまで敬遠してきたミステリ・ファンに、ものは試しとトライしていただきたい。