不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

少年探偵ロビンの冒険/F・W・クロフツ

少年探偵ロビンの冒険 (論創海外ミステリ―ヴィンテージ・ジュヴナイル)

少年探偵ロビンの冒険 (論創海外ミステリ―ヴィンテージ・ジュヴナイル)

 探偵ごっこが趣味の少年ロビンは、夏休みを利用して、友人ジャック(こいつは鉄ちゃん)の一家と一緒に、ジャックの父親が監督する地方の鉄橋工事現場の近くで8週間を過ごすことにする。そして洞窟を探検していると、怪しげな男たちが悪事の相談をしている場面に出くわしてしまい……。
 まず挿絵が素晴らしい。川下りですらジャケット&ネクタイでこなす少年たちに大いに笑わせてもらう。筆致が真面目であることもあり、いつ何時でも紳士たる子供たちが妙な可笑しさを感じさせる。他にも、ロビンは途中で一度、フレンチ警部に事件の相談をするのだが、あのフレンチ警部の活躍を本で読み、ファンであることを告白するなど、普通の少年探偵とは一味違う渋いところを見せる(ここでメタ視点から「クロフツは自作の宣伝をしている」などと言うのは野暮だ)。
 犯人が単なるアホであることも興味深く、誘拐を仕出かして余計に泥沼に嵌っている辺り、実に無茶であり、本作がジュブナイルであることを感じさせる。
 とはいえ、全体的には至って堅実な作品であり、地に足の付いた落ち着いた良作といえるだろう。
 なお、霞流一の解説は、クロフツの全体像の中で本作の位置付けを探るもので、なかなかに興味深い。