不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

サンキュー、ジーヴス/P・G・ウッドハウス

サンキュー、ジーヴス (ウッドハウス・コレクション)

サンキュー、ジーヴス (ウッドハウス・コレクション)

 バンジョレレの演奏を習い始めたバーティであったが、近所からもジーヴスからも苦情が来る。遂にジーヴスにも辞められてしまったバーティは、田舎に住む友人が所有するコテージに移り住み、そこで新しい執事を雇うのであったが……。
 ジーヴスものの長編第1作らしい。『よしきた、ジーヴス』『ウースター家の掟』に比べるとさすがに精度は落ちるが、それでもなお十分に緻密な構成を有しており、人間に対する洞察と素晴らしいユーモア精神が、我々読者に極上至福の読書体験をもたらしてくれるだろう。中でも特に素晴らしいのは、ラスト近くのバーティの道義心である。彼は非常なおバカだが、それでもなお、高潔な精神を湛える紳士なのだ。物語は徹頭徹尾、どこからどう見ても笑劇だが、そこには確かに、敬服すべき騎士道精神が息付いている。
 というわけで、これまた傑作である。これで私は入手容易なウッドハウスの訳本を全て読んでしまったことになる。もっとこの作家が読みたい。国書でも文春でもどっちでもいいから、早くウッドハウスを出して欲しい。強くそう思う。