不壊の槍は折られましたが、何か?

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浮かぶ飛行島/海野十三

海野十三全集 (第5巻) 浮かぶ飛行島

海野十三全集 (第5巻) 浮かぶ飛行島

 南シナ海沖で、イギリスが飛行場(今で言うメガフロート)を建設していた。そこに日本の巡洋艦が表敬訪問に訪れる。しかし、この浮かぶ飛行島、何か怪しい。ひょっとすると、大日本帝国に対する深遠な陰謀が隠されているのではないか……?
 イギリス&ソ連による、ユダヤ同士の大陰謀*1に雄々しく立ち向かう、若年帝国軍人の活躍を描く作品。海戦シーンもあります。南シナ海という敵国の目と鼻の先でこんな重要なもの造ったりしないと思うのだが、まあそこはそれ。敵愾心剥き出しの白人描写と同時に、アジア系民族(中国人とか)を「仲間」として描いているのは興味深い。なお、もちろん全ては荒唐無稽な少年向け小説だが、その限りにおいては展開もスリリングで楽しく読める。
 なお、三一書房の全集版では、冒頭に初出時の挿絵が何枚か掲載されているのだが、英国士官がアジア人ペンキ工に蹴りを入れている絵がある。この蹴りが筆舌に尽くしがたいほど綺麗で爆笑してしまった。

*1:ユダヤ陰謀論はこの時代から日本に輸入されていたのか、と興味深く読んだ。