ヒルミ夫人の冷蔵鞄/海野十三
- 作者: 海野十三
- 出版社/メーカー: 三一書房
- 発売日: 1989/04
- メディア: 単行本
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天才整形外科医ヒルミ夫人と、彼女よりも若い夫の、科学的幻想と妄執の物語。なかなか印象的な一編であり、ラストも気が利いている。黎明期日本SFが、怪奇幻想の持ち味をも発揮していたことを良い形で示す佳作といえよう。ただし、以下には笑った。
しかし今日という今日は、犬や兎の屍体はすっかり取り出されて、汚物入れのなかに移されてしまった。ひとまず鞄のなかは、綺麗に洗い清められ、そしてそのあとにバラバラの人間の手や足や胴や、そして首までもが、鞄のなかにギュウギュウ詰めこまれた。その寸断された人体こそは誰あろう、他ならぬヒルミ夫人の生命をかけた愛すべき夫、万吉郎の身体であったのである。
ヒルミ夫人は、夫万吉郎の身体を、生ながら寸断して、この冷蔵鞄のなかに入れてしまったのである。
では、ヒルミ夫人は、愛する夫を遂に殺害してしまったのであろうか。
いや、そう考えてしまうのはまだ早くはないか。
早くない早くない。全然早くないよ!