不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

雷/海野十三

海野十三全集 (第5巻) 浮かぶ飛行島

海野十三全集 (第5巻) 浮かぶ飛行島

 八王子よりも更に東よりの町で起こる、雷による怪死事件を扱う。冒頭で舞台が紹介されるのだか、この町の位置を説明するのに、わざわざ甲斐の山岳から始めて、筆を甲州街道沿いに東進させる。最初のうち、読者は舞台を「山梨の山中のド田舎かあ」と思うわけで、確かに当時は八王子の東もあまり開発されていなかったのかも知れぬが、まさにフェイント攻撃、ちょっとびっくりした。帝都中心部から素直に西進すればええがな。
 内容の方は、他愛もないSFミステリ。科学的なネタを扱いつつも、登場人物の言動は明らかに(戦前探偵小説によくある)女性はたをやめ、男は犯人以外おマヌケ揃い、その犯人は怨念全開、というのが海野十三の特徴だが、「雷」もそれがよく出ている作品である。