不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

少年検閲官/北山猛邦

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

 何人も書物を有してはならない。もし隠し持っていることが判明すれば、隠し場所もろとも(ときには町単位)灰にされる。──このような世界において、英国人少年のクリスは、書物を捜し求めていた。書物禁止制導入が世界で恐らく一番遅れていて、それゆえ残っている可能性がまだ一番高い日本に、彼はやって来る。そして、ある小さな町で奇怪な事件に遭遇するのだった。町中の家々に赤い十字架のような印が残され、近くの深い森では、首なし死体の目撃情報が後を絶たない。その殺人をおこなったのは《探偵》なる怪物、との噂だった……。
 文明における技術水準と、第2次世界大戦までの歴史はそのままに、本がない世界を設定している。この世界設定の詰めが甘く、人によっては気になるだろう。世界における整合性(事件における整合性とは異なる)を気にするSFファンにとっては、攻撃対象ですらあるはずだ。
 しかし個人的には「これはこういうものだ」という気持ちで臨んだので、特段問題とは感じなかった。なぜそういう気持ちになったかは、簡単である。『少年検閲官』はほとんど幻想小説のノリで読解できるからである。作品に流れるのは冷たく終末的な雰囲気であって、舞台は辺鄙で閉鎖的な村であり、おこなわれるのは少年同士の交流、そして顕現するのは象徴劇だ。更に筆がとても丁寧であり、雰囲気も実にしっかり作り込まれているため、多少の無理は許容できるのである。ミステリとしては、外面的な整合性は(しつこいようだが)世界設定の問題があるのでアレだが、内面的には幻想的な作品世界と本格ミステリの事象ががっちり噛み合っており、非常に素晴らしい。
 というわけで、幻想本格ミステリとして高く評価したい一冊である。続編もあるとのことで、大いに期待したい。