少年検閲官/北山猛邦
- 作者: 北山猛邦
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/01/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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文明における技術水準と、第2次世界大戦までの歴史はそのままに、本がない世界を設定している。この世界設定の詰めが甘く、人によっては気になるだろう。世界における整合性(事件における整合性とは異なる)を気にするSFファンにとっては、攻撃対象ですらあるはずだ。
しかし個人的には「これはこういうものだ」という気持ちで臨んだので、特段問題とは感じなかった。なぜそういう気持ちになったかは、簡単である。『少年検閲官』はほとんど幻想小説のノリで読解できるからである。作品に流れるのは冷たく終末的な雰囲気であって、舞台は辺鄙で閉鎖的な村であり、おこなわれるのは少年同士の交流、そして顕現するのは象徴劇だ。更に筆がとても丁寧であり、雰囲気も実にしっかり作り込まれているため、多少の無理は許容できるのである。ミステリとしては、外面的な整合性は(しつこいようだが)世界設定の問題があるのでアレだが、内面的には幻想的な作品世界と本格ミステリの事象ががっちり噛み合っており、非常に素晴らしい。
というわけで、幻想本格ミステリとして高く評価したい一冊である。続編もあるとのことで、大いに期待したい。