不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

天帝のはしたなき果実/古野まほろ

天帝のはしたなき果実 (講談社ノベルス)

天帝のはしたなき果実 (講談社ノベルス)

 文章、特に会話文が非常に酷い。読者の存在を真面目またはマトモに意識していないことは明白で、かなりの独り善がりである。この時点で色々厳しい。ミステリとしては、解明部分に至ると、推理合戦が繰り広げられるなど、それなりに普通だと解することもできるが、『虚無への供物』はじめ四大奇書のオマージュを語る以上、今度はその普通さが逆に物足りない。また幻想小説SF小説としては、展開があまりにも唐突かつ無理矢理で、評価するレベルにはないものと考える。総合的には、けだし駄作と判断したい。
 なお、巻末の参考文献は初心者入門用の文献ばかりで、これもまた厳しいが、小栗虫太郎が『黒死館殺人事件』でバッハ作曲《水上の音楽》を持ち出すなど、過去の黒い水脈において薀蓄がどれほどの正確性・正当性を保っていたか疑問に思わないでもないので、これをもって評価は下さないこととしたい。