不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

密室殺人ゲーム王手飛車取り/歌野晶午

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社ノベルス)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社ノベルス)

 ネットの片隅で、お互いも正体を知らない5人のゲーマーが推理クイズに勤しんでいた。5人は順番に出題者を担当し、出題者が提示する殺人事件の謎(ミッシングリンク当てやアリバイ崩し、密室トリックの解明など、テーマは様々)を、他の4人が推理するというものだ。どこにでもありそうなこのゲームには、しかし、一つだけ非常な特徴があった。それは、出題者が実際に殺人をおこない、謎を現実化してから出題するというものだったのだ……!
 軽い文体と堅牢な構成が特徴の、ゲーム要素の強いミステリ。実質的には連作短編集で、推理クイズの出題という《動機》によって出題者という《犯人》が殺人を犯すという構成は、フーダニットおよびホワイダニットを無効化し、ハウダニットのみを突き詰めることにつながっている。なかなか興味深い。ただ、そんなうるさいことを考えずとも、登場人物たちがオンラインで交わすユーモラスな会話は面白いし、繰り出されるトリックもバリエーションに富み、楽しめる。実際にこのような事件が起きると色々思ってしまうだろうし、非現実的というかそれはちょっとゲームが露顕するのでは、という部分もないではないが、総合的には、歌野晶午による大変良い仕事といえよう。うるさ型の本格ミステリ・ファンが《思索する》余裕もたっぷりとあるし、単なる娯楽小説としても気軽に広くおすすめできる。逸品と言えるだろう。