不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

伝道の書に捧げる薔薇/ロジャー・ゼラズニイ

伝道の書に捧げる薔薇 (ハヤカワ文庫 SF 215)

伝道の書に捧げる薔薇 (ハヤカワ文庫 SF 215)

 スウィングする華麗な15編。アイデア・ストーリーあり、寓話あり、恋愛あり、ユーモアあり、深刻さありだが、いずれも素晴らしく猥雑なのはどういうことだろうか。裏表紙には《スランギー》という言葉さえ見て取れるが、まったくそのとおりだと思う。個人的には、大スケールの魚釣り「その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯」、火星の舞姫と地球人の詩人の悲恋を描く「伝道の書に捧げる薔薇」、鉱物生物と地球人の滑稽なやり取り「収集熱」、これまた大スケールの登山譚「この死すべき山」、題名そのまんまの「超緩慢な国王たち」、時間が逆行して印象的なラストを迎える「聖なる狂気」辺りが好みか。これら以外も、ゼラズニイの言語感覚(もちろん訳者の功績も大きかろう)に酔うことができる名集が揃っている。せっかく『光の王』も復活させたのだから、これもお願いします。