不壊の槍は折られましたが、何か?

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ひとりっ子/グレッグ・イーガン

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

 長編と比べ、短編のイーガンは読みやすいし、テーマも明快に打ち出される。それは大抵の場合アイデンティティの問題であり、自分とは何かという問い掛けを、ifの上にifを重ねた条件設定の下でおこなう。現代社会における現実的なテーマ追求ではなく、あくまでSFのSFによるSFのためのものと言えるだろう。その徹底度合いは凄まじいものであって、だからこそ、イーガンは現役最高のSF作家として君臨しているのだ。もちろん、そこに何らかの寓意を読み取り、現実社会や人生に敷衍することも可能ではあるが、主たる魅力はそこにはないと解すべきであろう。
 『ひとりっ子』所収の7編も、全く違う法則に支配されている領域の存在を突き詰めてゆく「ルミナス」を除けば、前段のようなアイデンティティ追求型の作風を示している。そして相変らず、極めて高水準の出来栄えである。ただし、『祈りの海』『しあわせの理由』と比較すると、総合的には若干落ちるかもしれない。個人的には「真心」「決断者」「ふたりの距離」「ひとりっ子」がお気に入りかな。