不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

最後のウィネベーゴ/コニー・ウィリス

最後のウィネベーゴ (奇想コレクション)

最後のウィネベーゴ (奇想コレクション)

 女性が遂にアレから解放された世界での家族会議「女王様でも」、奇妙な時間旅行実験を描く「タイムアウト」、異星間交流とラブコメ「スパイス・ポグロム」、犬を絡めた終末譚「最後のウィネベーゴ」の4編を収録。
 コニー・ウィリスの腕前を堪能できる作品が揃っており、楽しめる。全編、構成もストーリーテリングも抜群にうまい。
 一番短くてその分風刺性とユーモアが顕著に出る「女王様でも」、居候の異星人とコミュニケーションがうまく行かない中、登場人物入り乱れてのコミカルな騒動が持ち上がる「スパイス・ポグロム*1は、話そのものが陽気で、読むだけで楽しい気分になるだろう。悲恋?が描かれる「タイムアウト」も、『航路』や『ドゥームズデイ・ブック』で見せた、深刻そうな中にも織り交ぜられるユーモア成分が絶妙な働きを見せる。
 その一方で、徹頭徹尾物悲しさに包まれる「最後のウィネベーゴ」も、ペットを飼う人、動物を愛する人であれば感ずるところ大であろう。もちろん、ペットがいない人(私もそうだ)にも、門戸は開かれている。そう、この短編は一種の終末譚なのである。大袈裟なところは何もないが。
 個人的には、ウィリスは長編だと若干くどい作風を示すと考えるが、短編だとそれほど気にならない。より広くおすすめできる素晴らしい一冊である。

*1:なお、舞台となる巨大宇宙ステーション《ソニー》は、その設定だけで日本人読者にとってはなかなか面白い。《ソニー》の中には、三越、大阪ストリート、銀座、そしてミサワホームが建てた家々がある。結婚式での神主の役目が神父・牧師と全く同じなのはご愛嬌。